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高市政権のつまずき 首相に求められる謙虚さ〈論壇時評〉中島岳志:東京新聞デジタル - 七転八起 Shichitenhakki

2026/11/01 (Sun) 15:12:04

https://www.tokyo-np.co.jp/article/524453





 近代保守思想の父と言われるエドマンド・バークは、フランス革命の担い手たちの人間観を批判した。社会の抜本的改造を掲げ、恐怖政治によって革命を進めようとする人たちの中には、理性や知性に対する過信が見られる。自分たちの「正しさ」を疑うことなく、正解を所有しているような態度をとる。その結果、反対意見を述べる人たちを粛清し、政治の場から追放していく。

 しかし、バークの見るところ、人間の理性は誤ることもあり、どのような秀でた能力を持った人間であっても世界全体を正しく認識することなどできない。人間は常に間違いやすく、能力の限界に謙虚に向き合う必要がある。

 そのような懐疑的人間観を共有する保守政治家は、自らの主張にも誤認や誤解が含まれていると考えるため、多様な立場の人の見解や自分と異なる意見にも耳を傾けようとする。そして、相手の主張にも理があると見なした場合には、落としどころを探りながら合意形成を行う。これこそ保守政治のダイナミズムである。

 元首相の大平正芳は「楕円(だえん)の哲学」を説いた。これは、中心は一つではなく、二つあるべきであるという考え方で、生産者と消費者、統治者と非統治者、保守と革新のような相反する立場・価値のいずれかに依拠するのではなく、それを囲むように弧を描くことこそが政治であると見なした。

 一方、保守の立場を強調してきたはずの高市早苗首相の政治姿勢は、独断的な傾向が目立ち、本来の保守政治のあり方から逸脱しているように見える。

 元外相の田中真紀子は「高市さん、日本をどうしたいのですか」(『文芸春秋』11月号)の中で、高市首相は「ちゃぶ台返しをして環境を変えるのに長(た)けている」という。2月の解散総選挙では、直前まで高市首相は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が取り沙汰されていた。そのような折に、大義がないまま衆院を解散し、勝利することで、自らへの疑惑や批判を抑え込んだ。

 一方、高市首相の人心掌握がうまくいっているかというと、そうは見えない。現役閣僚・官僚から聞こえてくる声は、高市首相との連携がとれていないということばかりだという。

 田中は、閣僚・党役員人事などを前に高市首相が実施した「役職希望アンケート」に注目する。本来、国会で議員立法として法案を提出する過程(衆院で20人以上の賛成者が必要)では自然と仲間やネットワークが生まれ、各議員の強みや精通分野を把握できる。高市首相に議員立法の実現実績が乏しく党内ネットワークが存在しないからこそ、アンケート形式で把握せざるを得なかったのではないかと指摘している。

 対照的に父である田中角栄は、政財界や地元支援者など多様な人々の意見を聞いた上で利害の均衡を見出し、合意形成を行っていた。その過程で官僚も自らの見解が採用されることにやりがいを感じ、相互の信頼関係が培われていたという。

 同じ『文芸春秋』11月号に掲載された塚口直史と渡辺努による対談「高市インフレ『プランB』なき危険な賭け」において、ファンドマネージャーの塚口は高市政権の経済政策を「論理的でなく、力業(ちからわざ)」と批判する。

 経済学者の渡辺は、高市首相の経済政策が、成長戦略の成功を前提に進められている点に問題があると指摘する。高市政権は人工知能(AI)や半導体分野に投資を行い、その結果として税収が増え、債務問題も解決するという構想を描いているが、本当にAIや半導体分野で日本が世界に肩を並べられるかは、明確な見通しが立たない。にもかかわらず、経済成長が実現しなかった場合、どのような手を打つべきかが、まったく議論されていない。「つまりプランBがない。一か八かの出たとこ勝負では無責任極まりない」

 これに対して塚口は「プランBがないまま、希望的観測で突っ込んだのは、先の戦争と同じです」と応答し、懸念を表明している。

 高市首相は独断的な農林水産大臣人事で大きくつまずいた。自らの政治姿勢を謙虚に見つめ直してほしい。(なかじま・たけし=東京科学大教授)


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