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それは「象徴天皇制の申し子」愛子さまへ向けられた「憎しみ」ではなかったか 識者(アエ - 七転八起 Shichitenhakki

2026/10/24 (Sat) 15:58:15

それは「象徴天皇制の申し子」愛子さまへ向けられた「憎しみ」ではなかったか 識者が「皇室典範再改正」を期待する真の理由:AERA DIGITAL(アエラデジタル)
https://dot.asahi.com/articles/-/295113?page=1



伝統行事「お木曳」を視察する天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2026年8月2日午後1時7分、三重県伊勢市
https://dot.asahi.com/articles/photo/295113







「改正皇室典範」が10月24日、施行された。この改正は私たちに回ってきたツケなのか。象徴天皇制は今後どうなるのか。内田樹さんと河西秀哉さんが語り合った(前後編の後編)。

*   *   *  

■「象徴的行為」は天皇の「権威性」を損なう?

内田樹(以下、内田):僕は66歳になるまで天皇制についてまじめに考えたことがありませんでした。でも、2016年、いまの上皇による「おことば」を聴いて初めて、象徴天皇制について考えるようになりました。自然災害の被災地を訪れて被災者を慰め、先の戦争の戦地に赴いて、慰霊する。それが「象徴的行為」であり、天皇の主務である。でも、天皇も老いるとこの激務を果たすことができなくなる。その時は潔く退位する。この考え方は天皇制についての全く新しい解釈だったと思います。でも、この被災者に寄り添い、国籍にかかわらず戦死者を悼むという行為を天皇がすることを嫌っている人たちがいる。

河西秀哉(以下、河西):そうですね。おっしゃったような「天皇にも身体があり、衰える」という気づきの反対側には、そのことに対して「権威性がなくなる」と感じる人たちもいる。つまり、天皇を神的な、絶対に衰えることはない存在と考えたい、いわばマッチョな思想ですよね。彼らがなぜ女性天皇、女系天皇を気に食わないかというと、そこにある種の「弱々しさ」──たとえば出産や生理もあって、常に力強くは居続けられない──を見てしまうからではないか。天皇とは、平成の天皇のように現場主義で、老いについて口にする存在ではなく、いわば単なる「記号」として御簾の向こうに存在していればいいのでしょう。

 改正までの経緯で、彼らがとにかく「嫌だ」ということは、非常によく伝わってきました。記号だからこそ、「2600年、男系男子が続いてきた」などと、平気で言ってしまうわけです。

内田:もし敬意があれば、他人の家系に関してこれほど不正確なことを言うはずがありません。それをあえて公人が口にするということは、「私はあなたの家系には何の関心もない」と言っているに等しい。

■政府は天皇を「記号」として見ている

河西:政府主催の4月の「昭和100年記念式典」でも、天皇を「記号」と見ていることがよくわかりました。天皇が発言するプログラムにしなかった。昭和100年の天皇のお言葉で、たとえば戦争への反省になど、言及してほしくなかったのでしょう。記号として儀式にいてくれたら、権威性が高まるので天皇にはいてはもらいたい。非常にわかりやすいですよね。

 私は、いまの上皇や天皇への評価として、沖縄への向き合い方は重要だと考えています。

■平和主義の天皇は「障害物」なのか

内田:上皇は皇太子時代に沖縄を訪問して、ひめゆりの塔で火炎瓶を投げられています。それでも沖縄に11回通い続けた。ご夫妻は琉歌を学んで、それは歌集にも収録されています。そういう沖縄への寄り添い方が「気に食わない」人たちがいる。そういう人たちが皇室典範を改正したのだと思います。

 今の天皇は身をもって護憲・平和主義という思想を実践されている。これから日本を「戦争ができる国」にして、兵器産業を経済のエンジンにしたいと本気で考えている人たちにとっては、護憲・平和主義の天皇は政治的な障害物以外の何ものでもない。今回の皇室典範改正の目標は戦後81年かけてようやく形を整えた象徴天皇制を廃絶することだと思います。

■改正は究極の女性差別

河西:加えて、今回の改正は「究極の女性差別」でもあると思います。いまのところは、世論から支持されている女性皇族に公務を続けてもらう。でもそれをその子どもには引き継いではほしくない、と。養子の子どもに天皇を継がせれば、平成以降重視されてきた、慰謝や慰霊を行う公務をバッサリ切れると考えているのでは。ソフトランディングさせたいから、女性皇族には1代限りは公務をやってもらう。言わば「バッサリ切る」ラインが定着するまでの数十年間の時間稼ぎのために、女性皇族に公務をやってもらうということではないか。きわめて姑息で、女性を道具のように扱っている。そういう思想がはっきり見えたのが残念で、憤りを持っています。

内田:愛子さまがもし男性であったら、今回のような改正案は出てきようがなかった。

河西:そう、出てこないですよね。

■愛子さまに向けられた「憎しみ」

内田:愛子さまは象徴天皇制の申し子のような方なわけです。愛子さまがもし男子だったら、「護憲・平和主義で弱者へ寄り添う文人天皇」が三代続いてしまう。それは困る。さいわい長子だが女性である。改正派には「そこ」しか攻めどころがなかったのでしょう。「象徴天皇制」に対する憎しみと女性嫌悪、この二つの歪んだ憎しみが、愛子さまに向かって向けられた。

 皇室典範改正には何の合理性も整合性もないし、政治的なメリットも期待できない。そもそも改正を急ぐような緊急性がない。にもかかわらず、自民党は改正に突き進んだ。その原動力は、象徴天皇制に対する反感と、女性天皇を戴くことへの忌避、それだけでしょう。

■天皇制を支えるのは国民の信頼と敬意

 でも、この計画は失敗すると思いますよ。天皇制を事実上支えているのは、法律ではなく、国民の中に広く定着した、天皇一家に対する信頼と敬意の感情ですから。仮に「天皇を記号として使う」ために政治的に工作して、自分たちの意のままになる「傀儡天皇」を作り出したとしても、そんな人物に対して国民が真率な敬意を抱くはずがない。

河西:私もそう思います。国民に敬意があるからこそ、象徴天皇制は平成以降、支持されてきた。つまり、政治家がいかにだらしなくても、被災地訪問に積極的に出かける象徴天皇のおかげで、分断社会も統合されてきたと思うんですね。

 それを今回、「要らない」と突っぱねたわけですから。私はこれはうまくはいかないと考えています。皇室典範は再改正すべきですし、いずれ再改正することになる、と思いたいんですけど……。

■皇室典範再改正の可能性

内田:今回の改正は多数派の横暴で通ってしまいましたが、政権交代はいずれ来ます。そのときに、いくつかの法律が変わると思いますが、皇室典範も女性天皇を可能とした2005年のレベルまで戻るのではないでしょうか。

河西:この30年、40年ほど、平成の天皇が一生懸命やってきたものを、今回の法改正で一瞬にして突き崩したということに対し、私たちはもっと怒るべきだと思います。天皇制を自分ごととして考えるきっかけはなかなかつかめないかもしれませんが、たとえば、女性皇族が実際に結婚して「お相手」が一般人であったとき。あるいは養子候補が実際に現れたとき。報道があふれて、小室さん眞子さんのとき以上のハレーションが起こるかもしれません。象徴天皇制のイメージはある意味、傷つくと思いますが、その半面、国民が象徴天皇制に対し、そしてこの改正に対し、考えるきっかけになり、何か気づきを得ることになるかもしれない、とは思います。

■天皇が道義性と知性を担保してきた

内田:どんな場合でも、日本人は「天皇制と立憲デモクラシーをどうやって整合させるのか」という、答えのない問いに向き合うことによって初めて市民的成熟を果たすということに変わりはありません。長らく天皇制に正面から向き合うということをしてこなかった僕のような人間が、2016年の「おことば」をきっかけに天皇制について考えるようになった。今回の皇室典範改正でも、多くの人たちが改めて「天皇制はどうあるべきか」を真剣に考え出しました。どんなものであれ、制度について思量することは端的に「よいこと」である。僕はそういうふうに前向きにとらえています。

 以前、韓国の人から「日本は天皇制があっていいですね」と言われたことがあります。韓国の大統領は任期後に罪を問われて裁かれることが珍しくありません。国家元首が囚人服を着せられる姿を韓国の国民はテレビで見せられる。その点、日本は、たとえ総理大臣が邪悪であっても愚鈍であっても、天皇が日本の道義性と知性を担保している。その安定性がうらやましいと言われました。

 戦後81年間天皇制は風雪に耐えて生き残った。この事実は重いと思います。太古的な制度が21世紀まで生き残ったのにはそれなりの必然性があるに違いない。では、この制度から私たちはいかなる「良きもの」を引き出すことができるか。誰も「正解」を知りません。どこかの国「うまく行っている王政」をモデルにして、その真似をすることもできない。日本オリジナルの政治的アイディアを創出することが、私たちに課された歴史的な「宿題」なんだと思います。



内田樹(うちだ・たつる)/1950年生まれ、仏文学者。神戸女学院理事等、神戸女学院大学名誉教授


河西秀哉(かわにし・ひでや)/1977年生まれ。歴史学者、名古屋大学大学院人文科学研究科教授


(構成 編集部 小長光哲郎)


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