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パリ炎上、なぜここまで…デモを始めた高校生が訴える教育と貧困「声を聞いてくれない(東京 - 七転八起 Shichitenhakki

2026/10/21 (Wed) 11:39:46

パリ炎上、なぜここまで…デモを始めた高校生が訴える教育と貧困、「声を聞いてくれない」大人たちとの分断:東京新聞デジタル
https://www.tokyo-np.co.jp/article/522846





 発端は、9月にフランスのパリ郊外の高校で始まった、教員不足や老朽化した校舎の改善などを求める高校生らの抗議運動だった。その後、物価高などにあえぐ市民らも加わる形で抗議活動は国内各地に拡大。一部が暴徒化し、放火や略奪を行う事態となった。背景に何があるのか。(太田理英子、坂田奈央)

◆暴力行為の背景には「貧困、社会への絶望感と怒り」が

 「フランスの教育環境は1990年代ごろからずっと悪化している」。フランス出身のジャーナリスト西村カリン氏は、そう嘆く。トイレの故障や水漏れといった設備老朽化の問題のほか、教員不足も深刻で、数カ月にわたり人員補充がされないこともあった。「特に今夏は、猛暑なのに冷房もない中、授業や試験を受けないといけない過酷な状況だった。コロナ禍で通学できなかった経験もある世代の我慢が限界に達した」

 17日にフランス各地であった大規模デモでは、一部が暴徒化し、略奪や破壊行為が相次ぎ、全国で約1500店舗が被害を受けた。反資本主義などを掲げる集団が加わっているとの見方もある。パリ警視庁は19日、パリの一部地域に夜間外出禁止令を出した。

 西村氏は、連日報じられているような放火や略奪行為に走る「暴徒」はごく一部だと指摘する。「多くは平和的手段で抗議している」とし、冷静に報道を受け止める必要性があると強調する。その上で、「暴力的行為は非難されるべきだが、その背景には貧困など、社会への絶望感と怒りがある。処罰だけではなく、原因を分析して対策をとらなければ解決しない」と続けた。

◆きっかけは高校の「机や椅子、教員不足」だった

 今回の大規模デモは、一つの高校が「机や椅子が足りない」「教員不足」といった劣悪な学習環境の改善を求めたのを機に、同じ課題を抱える別の高校の生徒や教員、良い環境で学ばせたい保護者にも連帯が広がったとみられる。

 大嶋えり子慶応大准教授(フランス政治)は「フランスの公立高校には、改善点などの要望を学校の上層部に伝える生徒代表が参加する民主的な組織がある。9月の新年度開始から数週間たっても問題が解決されなかったために抗議活動が本格化した」と話す。

 一部の暴徒化について大嶋氏は「抗議の本質的な内容を明らかにするためには(暴徒化の動きと)切り離して考えるべきだが、政府による取り締まり優先の姿勢や過度な警察暴力への強い反発が噴出した側面もある」と分析。背景にはマクロン政権の限界もあるとし「深刻な財政難による緊縮予算や議会での少数与党化などで、抜本的な教育改革を行えない手詰まり状態にある」と指摘した。

◆マクロン政権が導入した大学入試システムにも不満が

 劣悪な教育環境に加え、高校生らからの強い批判を生じさせた要因として、マクロン政権下で導入された大学入試制度がある。

 欧州政治に詳しい同志社大の吉田徹教授(政治学)は「志願者に対する大学側の選抜が強化される新システムに変わり、進学できない人が一定数生じている。若年層の失業率が高止まりしており、進学できても将来が保証されない状況に、不安と怒りが広がった」と指摘。

 多くの市民が高校生らに賛同した背景を、「ウクライナやイランでの戦争が続く中、インフレ問題が生じ、相対的貧困率も上昇している状況。十分対応できていない政治への社会的不満が鬱積(うっせき)し、運動を後押ししている」とみる。

◆次期フランス大統領選への影響は必至

 今回の大規模デモについて吉田氏は、来年4〜5月に控える次期フランス大統領選への影響は必至だと見通す。
 現地報道によると、今月上旬に公表された世論調査で、マクロン大統領の支持率は15%で、2017年の就任以来、最低の水準に落ち込んだ。吉田氏は抗議運動の政権への影響について「レームダック(死に体)化が進む」と指摘。他方、野党各党も抗議運動と無関係ではいられない。

 若年層の支持を集める極左政党「不屈のフランス」の大統領選候補者は、抗議運動に参加。極右政党「国民連合」は「法と秩序」を重視し、暴動に厳しい姿勢を見せている。「大統領選に向け、各政党の候補は高等教育の問題への態度の表明が求められる。争点化したという点では、抗議運動は成功しているといえる」と吉田氏は語る。

◆「デモやストで権利を主張する文化が根付く」国で

 大正大の松崎泰弘教授(メディア・ジャーナリズム研究)は「フランスはデモやストライキで権利を主張する文化が根付いており、高校生のデモ自体は珍しくない。ただ今回は、TikTok(ティックトック)などの交流サイト(SNS)を介して不満が急速に拡大、共有された影響が大きい」と話す。

 その上で松崎氏は「複数の高校生が現地メディアの取材に『報道が放火されたごみ箱など、暴徒化ばかりを優先し、警察からの暴力や被害を伝えてくれない』と話している。抗議行動を通じて大人が若者の声を聞いていないことを訴えており、深い分断を感じる」と指摘。「根の深い問題で、彼らが聞く耳を持ってもらえたと思うまでこの動きは終わらないだろう」と予想した。

◆日本でも共感「教育に政府がどれだけ責任を果たしているか」

 日本で教育や民主主義を巡る問題に声を上げてきた若者たちはどう受け止めるか。

 「対岸の火事ではない」と語るのは、大学で学費値上げ反対運動を展開してきた東大4年の金沢伶さん。「学校は社会の縮図。教育環境が整備されない状況は、社会的インフラ、セーフティーネットに予算が充てられず、教育の権利が守られていないということ」と読み解く。学費値上げは、家庭の経済的負担や就職後の奨学金返済の問題にも及ぶことに触れ、「教育の問題は教育現場だけで完結せず、政府がどれだけ公的責任を果たしているかが問われる問題だ」と訴える。

 30日に国会前での抗議集会を予定する市民グループ「WE WANT OUR FUTURE」の田代伶奈さんは、フランスの高校生らの行動に対し「教育環境は個人の努力ではなく政治の問題。『安心して学びたい』『将来に希望を持ちたい』という要求を主体的に発信している点に強く共感する」と話す。

◆「選挙では国民の不満が解決されない構造が定着」

 この団体は2月の衆院選以降、国会前の行動で最大3万人規模の動員を記録した。「私たちも日本で、暮らしを後回しにする政治に抗議し、平和や自由、そして一人一人の尊厳を守るために声を上げていきたい」と思いを語った。

 上智大の中野晃一教授(政治学)は「選挙制度だけでは国民の不満が解決されない構造が定着し、広場などの公共空間を『占拠(オキュパイ)』して有権者が直接抗議する運動が世界的に一般化している」と解説する。

 「欧州では運動が国境を越えて波及しやすいのに対し、日本は『自己責任論』が内面化されて個人が不満を抱え込みがち」と指摘。「社会や政治の失敗を個人の責任にしてひきこもりや自殺に追い込む日本の現状が問題で、声を上げることが必要だ」と話す。その上で、今回のフランスの例も踏まえ「抗議のイメージを暴力のイメージにすり替える意図的な操作に惑わされないリテラシーを持ち、行動の本質をしっかり見ることが重要だ」と訴えた。



◆デスクメモ

 教員不足など教育現場の改善を求めた高校生らの運動が、放火や略奪を行う暴動につながるとは、当事者らも全く想定していなかったに違いない。日本でも現状を変えようと、首相官邸前などで声を上げ続ける人たちがいる。時の政権がその声を無視することは決して許されない。(ぶ)


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