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「脅威国を名指し」防衛省がつくった小中高生向け教材の偏った記述…断る教育委員会も(東京 - 七転八起 Shichitenhakki

2026/09/15 (Tue) 11:29:01

「脅威国を名指し」防衛省がつくった小中高生向け教材の偏った記述 「配布は行わない」断る教育委員会も:東京新聞デジタル
https://www.tokyo-np.co.jp/article/515475





 防衛省が全国の小学校に2024年版防衛白書の子ども向け冊子「まるわかり!日本の防衛」を配布し、全日本教職員組合(全教)などが反発していた問題。2025年版は、配布を見送っていたが、小泉進次郎防衛相は、2026年版を小中高へと拡大して配布する方針を示している。防衛費が拡大の一途をたどる中、青少年をターゲットに政府の防衛政策に理解を求める手法に対し、教育現場からは懸念の声が上がる。(坂田奈央、松島京太)

◆「国際紛争を軍事的に解決することが当然のように描かれている」

 「防衛省の『まるわかり日本の防衛』の小中高校生への配布反対」──。8月29日から「チェンジ・ドット・オーグ」で始まったオンライン署名。9月14日時点で1万2000人を超える賛同が集まり、大学教授や弁護士ら100人を超える識者が「賛同人」として名を連ねる。署名活動を行う団体の共同代表を務める大阪市の小学校教諭、伊賀正浩さん(59)は「防衛省が文部科学省の検定が必要ない副教材のような形で、抑止力や戦力といった内容を学校現場に持ち込もうとするのは看過できない」と訴える。
https://www.change.org/Kodomo_Bouei_Book

 特に問題視するのは、中国・北朝鮮・ロシアの3カ国を名指しした上で「日本の安全保障環境が厳しくなっている」とした点だ。伊賀さんは「国際紛争を軍事的に解決することが当然のように描かれている」と指摘し「いま必要なのは外交的な解決の模索だと思う。社会科では日本国憲法の平和主義を教えるが、それとは真逆の内容を持ち込むことはできない」と危機感を訴える。

 小泉防衛相は8月4日の会見で「まるわかり」に関し、「将来を担う小中高生の皆さんにも防衛省・自衛隊やわが国の防衛の重要性について理解を深めてもらうべく公表した」と説明。同日から都道府県教育委員会や、都道府県の私立学校を管轄する部局への相談を順次開始したとし、「冊子での配布を希望する教育委員会や学校に配布する」と表明した。

 伊賀さんは9月末時点で集まった署名を全国の都道府県教委と大阪府内の市町村教委に送り、「防衛省から配布要請が来ても断ってほしい」と求めるという。

◆「防衛省が直接働きかける手法は、教育内容への不当な介入に」

 香川県坂出市の中学校教諭の女性(38)も教育現場で不安を抱える一人。最近、中国四国防衛局から勤務する中学に配布案内のメールが届いた。冊子の中身を確認すると「『日本の周りには危険な国があるから防衛力を高めなければならない』と読めた」とし、こう強調する。「中国との歴史的な関係や交流など多角的な視点を踏まえて子どもに考えさせる授業を教員が構築するなら問題ない。しかし、一つの見方に立った冊子を学校を通して配布しようとすることには強い抵抗がある」

 「まるわかり」は2021年に作成されて以降、防衛省ホームページで公開されてきた。同省は2024年版を初めて全国の教委に相談した上で小学校に配布。9自治体の約2400校に計約6100冊を配布したが、一部では不適切として配布を自粛した地域もあった。「こちら特報部」でもそうした事態を取り上げ、2025年版は配布されなかった。

 今月4日に文科省で配布反対の会見を開いた全教の村田信子中央執行委員は「2026年版で初めて『外交』の文言が入ったが、武力抑止を強調する文脈の中で形骸化している。防衛省が教委や学校に直接働きかける手法は、教育内容への不当な介入にあたる」と訴えた。全教によれば、防衛省が2024年版に添付した「読後アンケート」に「総合的な学習の時間に使用」など活動実績を問う設問があり、実際に授業に使った事例が7件判明したという。

◆「冊子の中に自衛隊へのリクルートのような記載がある」

 防衛省による配布依頼は順次始まっているが、各教委で対応は分かれている。

 青森県教委は今月初めに東北防衛局から配布を希望する学校にメールアドレスを伝えてほしいという依頼を受けたが、断る方針だという。県教委学校教育課の柴田久司指導主事は、文科省からの依頼ではない上、「冊子の中に自衛隊へのリクルートのような記載がある。一般に就職募集パンフレットなどを教育現場では配っていないので、子ども版の防衛白書だけ配るのは整合性がとれない」と理由を説明する。

 神奈川県教委は、防衛省の依頼に「配布や仲介などは行わない」と回答。県教委子ども教育支援課の本間隆司課長は、中国やロシアを名指しで脅威とする点を挙げ「県内に外国につながりのある子どもも多く、差別やいじめを生む恐れがある。防衛政策としての理解はできる一方で、安易な配布はできない」と述べた。

◆「教材というよりは職業案内」

 長崎県教委はまだ正式な依頼を受けてはいないが、小中学校で「積極的に取り扱いたいという自治体もある」として、基礎自治体の判断に任せるという。2024年版の配布時、長崎市は、他国に対する記載を問題視して職員室や校長室に保管して子どもには見せないよう対応。今回は県教委の指示や冊子の内容を踏まえた上で改めて判断する。

 実際に小中高の授業ではどのように使われる可能性があるのか。名古屋大の中嶋哲彦名誉教授(教育行政学)は、大半が自衛官募集の意図がある内容である点を指摘し、「自衛隊の装備や任務を詳しく紹介しており、教材というよりは『職業案内』。タイトルから『防衛白書』という言葉すら消えており、学校が軍事装置に組み込まれていく恐ろしさを感じる」と話す。

 さらに「教材としての使い道がない」とも話す。「例えば『専守防衛』や『非核三原則』『文民統制』といった記述があるが、現状の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費の大幅な増加を考えると、それらは疑わしく、強く言えば虚偽に当たる。適切な教材とはいえない」と切り捨てる。

◆「自衛隊や安全保障政策のポジティブな面しか紹介していない」

 特に教育現場からの懸念が大きい中国や北朝鮮、ロシアを名指しした点にも「偏見を助長する。本来あるべきピースメーキング(平和的な関係構築)や市民レベルでの交流といった視点が欠けている」と指摘した。
 山口大の纐纈厚名誉教授(政治学)も「いわゆる『刷り込み』に近い内容だ」と批判。「非常にバイアスのかかった政治メッセージであり、より平和確立の方途を述べる内容が望ましい。普遍性・平等性・道徳性を欠いた危うい公文書になってはいないか」

 なぜ、一度は配布が見送られたものが対象を拡大して配られようとしているのか。安全保障政策に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏は「そもそも子ども版の防衛白書を作り出した背景には、自衛隊員の確保が難しくなっているという事情がある」とする。「中学校と高校で配布しようとしていることからも、人員確保につなげたいという意図が見える。2024年版で批判が上がったにもかかわらず、今年から配布を再開するのには、高市政権の防衛政策に対する前のめり感がにじみ出ている」と指摘する。

 その上で、「冊子では自衛隊や安全保障政策のポジティブな面しか紹介していない。自衛隊には『事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め』という服務の宣誓があるように、いざという時は命を懸けることが求められる特殊な職業だ。また、『抑止力』についても万能ではなく軍拡競争に陥ると地域の緊張を高めるという面もある。そういった情報が欠けた冊子を教育現場で用いるのは、教育ではなく、防衛省の見解の紹介でしかない」と批判した。



◆デスクメモ

 批判を浴びながら、配布対象を拡大するのはなぜか。内閣府の世論調査では、自衛隊に「良い印象を持っている」と回答した割合は18〜29歳が最も高い。親世代を飛び越してアプローチするのが狙いなのか。「政治的中立性」が問題視されるべきは、平和教育ではなく、こちらだろう。(祐)


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