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累積赤字540億円!「クールジャパン機構」はなぜこうなった…エンタメ社会学者が斬る(日ゲ - 七転八起 Shichitenhakki

2026/09/07 (Mon) 11:38:26

累積赤字540億円!「クールジャパン機構」はなぜこうなったのか…エンタメ社会学者が斬る(日刊ゲンダイDIGITAL
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/392523



エンタメ社会学者の中山淳雄氏(C)日刊ゲンダイ







■中山淳雄(エンタメ社会学者)

 日本のアニメや食の海外展開を後押ししてきた官民ファンド海外需要開拓支援機構、いわゆる「クールジャパン機構」について、経済産業省が廃止に向けて調整していると一部で報じられた。2013年発足以来、83件、約2040億円の投資を決めたが、累積損失は540億円に上る。一方、日本コンテンツ産業の海外売り上げは24年に6.1兆円に拡大し、28年には10兆円、33年には20兆円の大台が目標になっている。コンテンツ輸出は好調なのに、クールジャパン機構はなぜこうなったのか、エンタメ社会学者に聞いた。

  ◇  ◇  ◇

■一体何が「難しかったのか」

 ──機構は「廃止へ」と一部で報じられました。

 廃止は決定しておらず、経産省の検討会が年内に結論をまとめるとみられます。損益がまだ確定していない案件の管理・回収という「撤退戦」という側面も見ていかなければなりません。

 また、540億円をすべて投資で溶かしたわけではありません。262億円は13年近くの人件費や税などの運営経費。確定した累積投資損益はマイナス20億円で、258億円は保有案件の含み損です。最終成績はまだ確定していませんが、だからといって現時点で惨敗なのは明らかです。

 ──投資先の多くが失敗したこと自体が問題なのでは?

 ファンドは10件すべてを当てる商売ではなく、黒字は2、3割でしょう。重要なのは勝率より、勝った案件がどこまで跳ねたか。たとえば、別の官民ファンド、INCJ(旧産業革新機構)は、経営難だった半導体大手ルネサスに出資して再建し、値上がりした株の売却で巨額の利益を得ました。約1.3兆円の投資に対し、2.3兆円超を回収したんです。クールジャパン機構は残念ながらそうはなっていない。

 ──機構の13年間をどう分析していますか。

 3期に分けられます。13~18年の第1期は自前の海外基盤をつくる新規の大型案件に積極投資し、18~21年の第2期は収益性と現地基盤を持つ事業者へ軸足を移し、21年から現在までの第3期は収益性を厳しく見た上で再び積極化しました。

 第1期は「アニメコンソーシアムジャパン」や「WAKUWAKU JAPAN」など、自前の海外流通基盤をつくる野心的な案件に資金を投じました。しかし、民間にもノウハウがない事業。「資金がない」と「やり方が分からない」は別問題です。以後はメディア・コンテンツへの投資自体が縮小しました。

 ──マレーシアの「ISETAN The Japan Store」も約9.7億円を出資しながら、2年足らずで撤退。「オールジャパン体制」はなぜ失敗するのでしょう。

 高品質な日本商品を並べても、現地で売れる価格や売り方とは限りません。「良いものを集めれば売れる」という発想では続かないんですね。

 複数の企業が集まり、政府も出資したとしても、誰も経験のない事業だと、収益化の責任が分散してしまう。かつて、ソニーや任天堂が海外開拓に成功したのは、企業家が会社の資源と自らの進退をかけ、10年単位で取り組んだからです。海外新規事業は文化や商習慣の壁があり、ただでさえ難しい。だからこそ、企業側も本気で取り組む人材を社を挙げて投じているかが重要です。

■日本文化ではなく「売る仕組み」が問題

 ──機構の苦戦とは反対に、日本のアニメやゲームは世界で絶好調です。

 そこを混同してはいけません。日本コンテンツの海外売り上げは2010年の1兆円から23年に5.8兆円、24年には6.1兆円まで伸びました。作品は海外で受け入れられたのに、それを海外へ売るために国がつくった仕組みが機能しているか。そこが本質です。

 ──中山さんは「日本の5万人のクリエーターは最高水準だが、周囲の50万人の質を高める必要がある」と指摘しています。

 突出した才能は政策ではつくれません。日本には同人文化や投稿サイト、新人賞など、作品が生まれる土壌があります。一方、それを海外へ届ける営業、翻訳、契約・知財などビジネス人材が足りません。

「いいものをつくれば、誰かが見つけてくれる」という成功体験もあり、日本は売る力が弱い。海外ビジネスのできる人材は商社などへ流れ、エンタメ業界には来なかった。企業が初任給などの条件を見直し、何度断られても口説くくらい本気で引き込まなければいけません。それができなければ、人気の果実は海外プラットフォームに持っていかれてしまいます。

■国は作品を選ばず「外側」に油を差せ

 ──なぜ韓国企業にはそれができ、日本企業は出遅れたのでしょう。

 私が海外事業をしたとき、日本企業が本社から送るのは2、3人。一方、中国や韓国企業は優秀な人材を何十人も送り、社長も毎月のように現地へ来る。本気度がまるで違いました。

 国内で稼げる日本企業は、問題の多い海外から3年ほどで撤退し、ノウハウも途切れがちです。韓国企業も何度も失敗しましたが、15年、20年と挑戦し、人と拠点を残しました。政府支援だけでなく、企業の粘り強さが現在の成果につながったんです。

 ──韓国の背中は、どのくらい遠いのでしょう。

 政策面では20年ほど遅れています。韓国が国を挙げて本格支援を始めたのは2000年代後半ですが、BTSが米国で花開いたのは17、18年。それでも、米国市場を完全に攻略したとはまだ言えません。海外展開は15年、20年と続ける仕事なんです。日本企業が幅広い分野で本腰を入れ始めたのは12~14年ごろ。ここから2040年まで粘れるかが勝負です。

 ──では、国はエンタメに関与しない方がいいのでしょうか。

 そうではありません。国に売れる作品を選ばせるのは難しい。しかし、翻訳、海外宣伝、契約、海賊版対策など、民間だけでは整備しにくい「外側」には国としての役割があります。国策支援の大原則は「水を差さず、油を差す」ことです。

 ──経産省は33年の海外売り上げ20兆円を掲げました。失敗を繰り返しませんか。

 金額だけ増やしても成功しません。「オールジャパン体制」で海外プラットフォームをゼロからつくる発想に戻れば、失敗を繰り返します。現地事業者と組み、中小企業も使える制度にして、専門人材に継続して運営させるべきです。

 韓国には、データと専門人材を蓄積する韓国コンテンツ振興院があります。日本では省庁の担当者が2、3年で代わり、政策の記憶まで途切れがちです。流行してから追いかけるのではなく、産業を理解する人を組織に残さなければいけません。

 ──機構を廃止するなら、失敗の教訓をどう残すべきでしょう。

 検証を生かさなければいけません。個別案件も調べ、撤退の遅れや現地パートナーの有無、収益化の責任を、次の企業が使える知識として公開すべきです。

 映像投資ファンド「ジャパンコンテンツファクトリー」は解散しましたが、そこでの投資経験は、三菱UFJなどが相次いで立ち上げるコンテンツファンドに生かせます。「この段階の作品に、この方法で投資すると危険だ」と分かれば、失敗も無駄ではない。機構だけをなくして、「税金を使いましたが、何も残りませんでした」では最悪です。私たちの役割は、次の挑戦に渡せる教訓をひとつでも多く拾うことだと思っています。

(聞き手=橋爪健太/日刊ゲンダイ)



▽中山淳雄(なかやま・あつお) 1980年、栃木県生まれ。東大大学院修了(社会学)、カナダ・マギル大MBA。DeNA、バンダイナムコスタジオ、ブシロードなどで海外事業を担当。現在はRe entertainment代表、日本大学芸術学部特任教授など。著書に「エンタメビジネス全史」「キャラクター大国ニッポン」他。



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