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その投資、どこがクールジャパン? 累積赤字540億円「クールジャパン機構」の失敗は(東京 - 七転八起 Shichitenhakki

2026/09/04 (Fri) 14:40:28

その投資、どこがクールジャパン? 累積赤字540億円「クールジャパン機構」の失敗は検証されるのか:東京新聞デジタル
https://www.tokyo-np.co.jp/article/513228





 2027年度予算の概算要求で、巨額の累積赤字が問題となっていた官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」に関する要求が見送られた。現在、有識者による検討会で統廃合に向けた議論が進められているが、失敗の検証はどこまで行われるのか。一方で政府は8月、新たなエンタメ・クリエイティブ産業戦略を公表した。ここでも官民投資による日本発のコンテンツ市場拡大を目指すが、教訓は生かされるのか。(松島京太、佐藤裕介)

◆「モラルハザードの可能性が」内部からも厳しい指摘

 「投資対象分野について成功の余地があったのか」「モラルハザード(倫理観の欠如)が起きていた可能性があったのではないか」。7月29日に非公開で行われたクールジャパン機構に関する経済産業省の検証検討会では、専門家委員から次々と厳しい指摘が飛んだ。

 2013年に第2次安倍晋三政権の肝いり政策として設立されたクールジャパン機構。日本のアニメやファッション、食などの文化を海外に売り込むことを目的とした官民ファンドで、今年4月現在、さまざまな分野への投資実績は83件で総額2040億円。しかし、その「成果」は見えぬまま、累積赤字は2025年度末で540億円に。ついには2027年度予算の概算要求では機構の要求は見送られた。
 この問題の引き金の一つともされているのが、機構が140億円を出資したバイオ繊維企業「スパイバー」だ。「人工クモの糸」を使用した繊維を開発するベンチャーだったが、今年3月に債務超過で私的整理に入った。交流サイト(SNS)上では、繊維産業への出資について「どこがクールジャパンなのか」などの疑問の声が上がった。
 投資の「成果」が疑わしい事業はそれだけではない。日本アニメの海外向け動画配信を手がける「アニメコンソーシアムジャパン」に10億円を投資した後に撤退した。日本のドラマや映画を現地語で放送する海外のテレビチャンネル「WAKUWAKU JAPAN」にも44億円を投資。同チャンネルはインドネシアでは一時人気を集めたというが、撤退を余儀なくされた。

◆「不採算事業へのだらだらとした資金拠出が継続していた」

 機構を管轄する経産省はどう受け止めているのか。同省文化創造産業海外需要開拓室長の依田圭司氏は「まだ廃止は決まったわけではない。既存の手元資金が十分にあるため、概算要求しないことは廃止と同義ではない」と強調するが、2027年度以降の活動は厳しい状況だ。これまでの投資についての評価については「今後の検討会で話すことであり、その前にコメントするのは難しい」とした。機構の正式な存廃は検討会で年内に結論が出される。

 第一ライフ資産運用経済研究所首席エコノミストの永浜利広氏は「先端分野への投資のリスクや失敗はある程度容認するべきだ」としつつ、累積赤字が膨れ上がったことについては「不採算事業へのだらだらとした資金拠出が継続していた。投資実行時に一括に近い形で資金を提供したこともあり、本来ならば採算の取れる事業への資金の再分配をするべきところだったが、そのための成果のチェックや撤退判断が滞った」と分析する。
 さらに、永浜氏は機構のスタート時点で既に問題があったと指摘する。「そもそも何のために日本の『魅力』を海外に売り込むのか、目的があいまいすぎだ。日本のブランド力を国際的に高めたかったのか、それとも収益を上げたかったのか。それが明確に定まらない中、やみくもに投資を続けた。機構として迷走していたと言わざるを得ない」

◆問題点の検証が終わる前に新たな計画が

 多額の投資損失を出し続けてきたクールジャパン機構の統廃合に向けた検討が進む一方、政府が再びコンテンツ産業に手を出そうとする動きが早くも始まっている。

 政府は7月に高市早苗政権としては初となる経済財政運営の指針「骨太方針」を決定。人工知能(AI)・半導体や防衛産業などとともにコンテンツ分野を「戦略17分野」の一つとして支援し、官民投資を促進していく方針を打ち出した。
 これに合わせる形で、経産省は8月20日に「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」(ものがたり大国5か年計画)を公表した。
 2023年に5兆8000億円だった日本発コンテンツの海外売り上げを2033年までに20兆円に増加させることを目指し、融資活用による資金確保やクリエーターの育成・確保、海賊版などによる権利侵害への対応などに取り組むという。
 クールジャパン機構の問題点の検証が終わっていないにもかかわらず、かつて関連政策を推し進めた安倍政権と「同じ轍(てつ)」を踏もうとしているようにも見えるが、経産省の担当者は「クールジャパン機構と同じような(国による)投資を行うというものではない」と違いを強調する。

◆ものがたり大国「ナショナリズム的なうさんくささを感じる」

 それでも、「『日本スゴイ』のディストピア」(青弓社)などの著書がある編集者の早川タダノリ氏は、新たな「産業戦略」について「クールジャパン政策の失敗を反省しているようには見えない。『看板』を付け替え、『新しい顔』で出てきたようなものではないか」と指摘する。
 産業戦略のサブタイトルの「ものがたり大国」のネーミングセンスについても「日本を『大国』に仕立て上げたいというナショナリズム的なにおいや、うさんくささを感じる」。
 そもそも、政府が民間のアイデアによって支えられているコンテンツ分野を「戦略17分野」に選定したこと自体を疑問視する向きもある。
 一橋大の佐藤主光(もとひろ)教授(財政学)は「大規模な投資を必要とするAIや半導体産業への一定の支援は理解できるが、アニメや漫画、映画などといったコンテンツ産業は民間の創意工夫で成り立っている。前例踏襲になりがちな霞が関の官僚たちが積極的にこの分野に関与していく合理性は低い」と話す。その上で、必要とされているのは「官」による融資や投資ありきの議論ではなく「産業の成長を阻んでいる障害や規制を取り除いていく議論こそ重要ではないか」とみる。

◆「クリエーターへの還元」実現は不透明

 産業戦略は、クールジャパン政策でほとんど実現できていなかった「クリエーターへの還元」を掲げているが、実現するかどうかは不透明だ。

 ジャーナリストの松谷創一郎氏は「クリエーターのなかでも特に重要なのがゲームやアニメ、音楽分野にまで大きな影響を与える漫画家だが、労働環境は必ずしも恵まれたものとは言えない。一回の失敗でくじけず、何度もチャレンジできるような環境づくりや支援が大切だ」と訴える。
 同じ文化でも、政府の対応に疑問の声が上がっている。文化庁は先月、熊本地震で被災した民間所有の重要文化財などの修復費の一部を捻出するクラウドファンディング(CF)の募集を開始。SNS上では「クールジャパンは税金で、なぜ被災文化財の復旧がクラファンなのか」との声が出ている。
 松谷氏は「被災した文化財に関しては、できる限り国が支援をしていく形が望ましい」とした上で「ポピュラー文化や伝統文化も含め、国として文化をどう捉えるかというグランドデザインがないのは問題だ」と指摘。「丁寧な議論を行い、国としての向き合い方を定めていく必要があるのではないか」としている。



◆デスクメモ

 お金をかければ、自然と良い作品が多く誕生し、収益が上がるというわけではないだろう。重要なのは作り手をどう支えるか。政府の政策には「大国」や「勝ち筋」などの言葉が並ぶ。他国を圧倒し、白黒を付けることが目的なのか。投資がゲームの「課金」のように見えてならない。(祐)


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