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(社説)皇室典範の見直し 時代錯誤の「物語」 賛同できぬ(朝日新聞 - 七転八起 Shichitenhakki

2026/07/18 (Sat) 11:32:14

https://www.asahi.com/articles/DA3S16506579.html?iref=pc_rensai_long_16_article





 改正皇室典範が成立した。(1)女性皇族が結婚後も皇族の身分を保てる(2)旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えることができる――の二つが柱だ。皇族数確保をめざしたはずが、今後の皇位継承を規定する内容が埋め込まれた。

 衆参正副議長による「立法府の総意」のとりまとめでは正面から議題になっていなかったことが、法案化の段階で明示されたため、野党側には「だまし討ち」との不信感が強く残り、参院で野党第1党が反対するなど国会の総意は崩れた。国民の総意に基づくはずの重要法案が強引な手法で通ったのは極めて遺憾だ。

 ■担うのは生身の人間

 現在の女性皇族は、結婚したら皇室を離れる前提で人生を歩んできたため、皇室に残るかの選択は、本人の意思を尊重する。これは当然だ。

 ただ、女性皇族の配偶者や子の身分は、改正典範では皇族とはならない。政府の説明は「取りまとめに記載がなかったから改正典範にも書いていないだけ」という内容で、将来どうなるかはわからないという。これでは、当事者の選択は難しい。

 養子は「配偶者と子がいない15歳以上の男子」で、養子になると「意思に基づき皇族の身分を離れることができない」。特に未成年の場合、事情も十分わからず皇室に入り離脱できないのでは過酷だ。

 改正支持派にうかがえるのは「女性は決して皇位継承にかかわらせないが補佐的な役割を果たすため皇室にとどまってほしい」「養子は、男系で血がつながっている男性が存在していればいい」という考えで、個人を皇室制度の手段とみなす色彩が濃い。

 天皇もそれを支える皇族も「生身の人間」だ。一人の人間として、本人の意思や人権を尊重することが不可欠だ。

 ■固執が生んだ無理

 審議で、「皇位の男系継承は2600年以上にわたる伝統」といった発言が相次いだ。「2600年の歴史」と「男系男子の伝統」。時代錯誤ともいえる二つの「物語」に、推進側は依拠していた。

 約2600年前に即位したとされる初代の神武天皇は学術的に実在が確認されていない。建国神話を歴史的事実として教え、神国思想のもと国民を軍国主義に動員した戦前の過ちが繰り返されないか。懸念を抱かざるをえない。

 「男系男子」は明治期、旧皇室典範を定める際に確立された考え方で、「男性尊重の国民感情・慣習」が有力な論拠だった。当時の男尊女卑的価値観を反映したと言える。

 この二つの物語に固執するあまりに無理を重ねてできたのが改正典範だ。養子の対象となる旧11宮家について、天皇陛下とは「36~38親等の隔たりがある」という答弁に驚いた人も多いだろう。養子の子が男子なら皇位継承資格を持つと改正典範に明示されたのだからなおさらだ。

 国連の女性差別撤廃委員会は2024年、男系男子の皇位継承を定めた皇室典範の改正を勧告した。象徴天皇制が国民の総意に基づく以上、男女平等を否定し女性を排除する制度づくりは望ましくない。多くの人が怒りや不信感を抱くのは当然だ。欧州では、男女の区別なく長子優先に改めた国も少なくない。

 伝統とは「必ずしも不変のものではなく、各時代において選択されたものが伝統として残り、またそのような選択の積み重ねにより新たな伝統が生まれるという面がある」と、皇室典範に関する有識者会議の05年報告書は言う。

 ■広く議論を始めよう

 「無理」の背景として見過ごせないのは、右派色の強い団体の存在だ。神社本庁の関連団体・神道政治連盟は、女性・女系天皇の容認について「男系による万世一系の伝統を揺るがし、かえって不安定化させるもととなる」としてきた。日本会議と密接な関係にある「皇室の伝統を守る国民の会」も「皇統に属する男系男子孫の養子案を具体化すること」を重要課題とする。

 こうした方向性と、今回の内容はぴたりと合致する。

 高市早苗首相はじめ与党や野党の一部も両団体との関係が深い。首相動静によると、首相は神政連の会長と1、2、4月に面会。日本会議では21年の総裁選出馬以降、高市氏支援の組織づくりが各地で進んだ。

 そうした団体の声に政治家が左右されるのは、意向に反すれば「票が消える」「批判にさらされる」との恐怖感もあるとみられる。一部の人が自説を拡散し、増幅されて政治が影響を受け、世論調査などに表れる「声なき多数」の意思が十分くみ取られない構図は歪(ゆが)んでいないだろうか。

 今回埋め込まれた皇位継承のあり方は、国民の総意と乖離(かいり)する。象徴天皇制は、憲法的価値をはじめ国民が象徴として求めるものを体現する努力が重ねられる上に成り立ってきた。改正典範はその信頼関係を損ないかねない。

 典範改正には改めて反対する。時代錯誤の「物語」を克服するため、女性・女系天皇への道を含め、皇位継承や天皇制のあり方について、開かれた議論を始める時である。


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